これはウエディング情報誌に掲載された『ジュエリーサロン鶴 代表 鶴木』 と
『ジャパンジュエリービジネススクール 校長 畠健一氏』による対談記事です。
これから結婚を控えている方々のヒントになればと思います。
  • 婚約指輪や結婚指輪を買うということは、普段私たちがショッピングに出掛けてアクセサリーを買うのとは違う心構えがあると思うのですが、何が大切でしょうか。
  • 最初にお伝えしたいのは、婚約指輪や結婚指輪はお店が“売るもの”ではなく、消費者が“買うもの”でもないということです。“売る価値・買う価値”があるものなのです。
  • 価値のあるものとはどういうことかというと、例えばうちのお店は蔵のような建物でジュエリーショップとしては変わった店構え。店内の壁や天井にある木材の柱ひとつとっても100年以上の時間が経っているものなんですよ。そういうものって後世に残して行くべきものだと思うし、それと同時にやはり宝石も、代々後世に伝え残していくべきものだと思っている。それが価値というものだよね。だから婚約指輪も、単にファッション性だけでする買い物じゃなく娘に、孫にと伝わっていくものであってもいいんじゃないかと思う。日本の宝飾文化は浅いので、最近ようやく両親の指輪や宝石を娘や息子が受け継いで自分のリングに作り直すなんていうことがでてきたんだけど……。
  • そういうお話も聞きますけど、まだまだ珍しい話ではありますよね。
  • そのためには、婚約指輪選びを真剣にやらなくちゃいけないよね。結婚指輪を買いに来るカップルと話をしてみても「婚約指輪はもらっていない」っていう人がけっこう多い。要するに婚約指輪に意味を持てないでいるんだよね。だからひとりで相談に来る男性には「男のけじめだから」って話しをするんだ。けじめっていうのは、彼女に対するけじめもあるけど、彼女の両親に対するけじめもあるよ。よく給料の3カ月分なんていう話が昔は言われていたけど、まぁそんなに無理する必要は無いので10万でも20万でも何か形に、やっぱり残して欲しいよね。
  • 男性ひとりで買いに来る方というのは、やはり不安を抱えている方が多いですか?
  • そうだね。贈ること自体どうしようかなっていう迷いもあれば、金額面での不安も多い。1番困っているのが男性ひとりで来るとデザインに悩むんだよね。彼女のデザインの好みを熟知しているならサプライズで買いに来てもいいと思うんだけどね。結婚は見えていてもただ長くつきあっているというカップルだと、婚約指輪を買うことが一つのきっかけ作りになるから。
  • そうですよね、最近は婚約指輪は贈らず、時計や普段使いのアクセサリーでいいっていうカップルも多いようですが、きっかけとして意思表明として、贈られたらうれしいものですしね。
  • 例えばひな祭りにおひなさまを飾るのも、人間のけがれをおひなさまにふき取ってもらい、良縁に恵まれるようにという女の子の大切な行事なのに、だんだん意味が忘れ去られて形式的なものになってしまっています。同じように婚約指輪に込められた大切な意味も忘れられて、形式化していますよね。婚約指輪は男性の気持ちの決断です。物事の意味は、起源をたどればわかりますよ。
  • 起源というと、どういうことがありますか?
  • 昔、指輪は印章指輪でした。いわゆるハンコです。ハンコは土地や財産などの証明になくてはならないものですから、肌身離さず身に着けていました。しかし戦場に赴く時には戦死するかもしれませんから、愛する伴侶に印章指輪を預けていたのです。つまり、共有財産として、一緒に生きていこうという証だったんですよ。
  • えぇ!いい話ですねー。それをすべての男性に知っていて欲しいですね!知っていて、そして言葉で語ってから婚約指輪を渡して欲しいです。今は多分、意味を感じられないから贈り合わないんだと思うんです。それほどの気持ち、そういう意味合いで自分に贈ってくれるんだと思ったら女性もうれしいですし。
  • そう思うとやっぱり、婚約指輪はより美しくより大きく、よりいつまでも、が選ぶ際のポイント。アクセサリー的なものではなく、40代、50代といつまでも身に着けられるジュエリーを選んで欲しいですね。
  • 何でもいいから一粒、ダイヤをもらえばいいやというよなことではないよね。デザインの面から言えば、婚約指輪はデザインリングや人気のエタニティー、石がライン状に並んだものなどいろいろあって、結婚指輪に重ね着けしても映えるようなものも出ているし、結婚してからも十分楽しめるものが増えている。それは本当に良いことだと思う。
  • 全財産を投げ出す決断ができないで、結婚してはいけないよね。それにマリッジ・ブルーを乗り越えるためにも、左手の薬指に、婚約指輪はしていたほうがいいんですよ。
  • 左手の薬指というのは、なぜなんでしょうか?
  • 10本の指で1番使わないのが(右利きの人が多いので)左手の薬指。実用的に使用頻度が少ないからぶつけたりしない、安全な指ですね。それから薬指と小指の間を液門といって副交感神経のツボでもあるので、ここに指輪を着けていると金属のイオンの動きもあって心が落ち着くんですよ。マリッジ・ブルーは、なって当たり前。むしろ、自分磨きのいい機会です。その期間に左手の薬指に婚約指輪を着け、マリッジ・ブルーを乗り越えるお守りにするんですよ。さらに言えば、指輪の輪=「環(わ)」は良くないものをその環の中に入れない魔よけの意味もあります。魔がささないためのお守りでもあるんですよ。
  • なるほど。いつも身に着けていられるお守りというのは心強いですね。私の両親も申し訳程度のダイヤの結婚指輪をしていますが、ダイヤが小さいということが母の不満であると同時に「でもダイヤなんだよ」っていう思いも強いらしくて。やっぱりダイヤモンドって特別なものなんですね。
  • そうそう、別にダイヤじゃなきゃいけないってことはないんだけれど。ルビーとかサファイアとか誕生石でもいいんだけどね。迷っているお客さんに相談された時は「一生ものだからダイヤ買っといてもらえば?」ってアドバイスするよ。今しか買ってもらう時ないよって。将来的にはそうそう買うチャンスも無いものね。
  • そう、一生ものだからね。「征服しがたい、侵されがたい」がダイヤモンドの語源ですが、それはダイヤの類まれな硬さからきているんでしょう。ダイヤモンドは原子と原子の距離が短くしかも共有結合している、つまり、しっかり抱きしめ合っている。だから、硬いんですね。抱きしめ合っているから熱も伝えやすい。新郎の思いを一番伝えやすい宝石です。ちなみに科学的に言えばダイヤモンドの元素は炭素「(元素記号)C」です。
  • 炭素がなければ人間もダイヤモンドも存在しなかった。地球に炭素Cが来たこと自体、奇跡だよね。結婚って数十億の人の中から出合った奇跡みたいな縁だけれど、ダイヤモンドとの出会いはそれ以上ですよ。
  • そういうことを知っているだけで、ロマンを感じますよね。
  • ダイヤモンドは最も透明な「Dカラー」がもてはやされるけど、炭素Cの結晶の中にチッ素が含まれることで黄味をおびてきます。また、コランダムにクロム、鉄、チタンが入るとルビーやサファイアになるんですよ。それを不純物=余計な物としてとらえるのか、より貴重な物ととらえるのか、それは人の価値感の問題だよね。
  • そうそう、ほかにも「ダイヤモンド イン ダイヤモンド」「ガーネット イン ダイヤモンド」など、ダイヤの中にほかの宝石を含むものがあるのだけれど、それらの評価にも同じ事が言えますよね。私たち鑑定のプロが見ると、ダイヤの中に宝石を含むものはとても“かわいい”と感じる。ダイヤモンドの赤ちゃんが入っているという感じで。でも表面的な価値しか求めていないとランクの低いものとして扱われたり、そこを削り取ったりしてしまうんです。
  • そう思うと評価って不思議ですね。
  • まぁ、一つの基準でしかないんだけどね。でも高い買い物をするにあたって、ものさしは必要だから設けられているものではあるんだけれど。
  • 婚約指輪や結婚指輪にダイヤモンド イン ダイヤモンドを買われたら、すてきな赤ちゃんに恵まれるかもしれませんよ。
  • 愛おしいと思う気持ちが大切ですよね。
  • そう、こういう「インクルージョン(ほかのものを内包した宝石)」と「割れ、欠け、の傷」を見分けられるのがプロですよ。読者の方にも、インクルージョンと傷との違いを見分けられ、かつジュエリーの本物の価値を知っているお店で宝石を買って欲しいですね。
  • 最後に、読者に向けて、一言アドバイスをお願いします。
  • 4C(ダイヤモンドの価値を決める4要素。カラット、カラー、クオリティー、カット)ばかりにこだわらず、本当に欲しいものを求めてほしいですね。ものさしにこだわって輝きを感じられないほど小さなダイヤモンドを買っても、歳を重ねた時に後悔しがち。0・3カラット以上のものを視野に入れて欲しいです。
  • 0・5以上から0・7カラットあると見映えが全然違いますからね。鑑定書の数字を追うばかりでなく、本当の価値をわかった上で一生楽しめて代々引き継げるジュエリーを手に入れてください。
  • せっかく一生ものの買い物をするのだから、真実を見極める目や意味を理解する気持ちを持っていないと残念だと、つくづく思いました。読者の皆さんも今回のお話を参考に、世界に一つのジュエリーとめぐり会ってくださいね。